あそび道具を通じて長年ボーネルンドに関わってくださっている星山麻木先生。あそび場についても、初期から注目くださっていました。その後のキドキドとの関わりやこれから期待することについて、お聞きしました。
キドキドの1号店が横浜にオープンした時、これほどまでに充実した室内遊び場が日本で実現したことに、心から感動しました。
その頃すでに公園は失われつつありました。回ったりよじ登ったり、安全に遊べる遊具も減っていました。回転運動や重力に逆らう抗重力運動など、幼児期には絶対に必要とされる動きを保証する環境を作ることを、この国の大人たちは忘れてしまっていたのですよね。そんな時代にできたキドキドには、多様なあそびが揃っていて、しかもデザインが洗練されていて。とてもわくわくしました。
2004年、キドキド1号店としてオープンした「ボーネルンドあそびのせかい 横浜みなとみらい店」。2013年にマークイズに移転、いまも東の旗艦店として人気を集めている。
お仕事として関わるようになったのは、八王子の施設です(※)。市から、子育て施設を作りたいので関わっていただけませんかとお声がけいただきました。ちょうどショッピング施設の中に場所が空いていて、ここにキドキドがあったらさぞかしいいのにねと話していたら本当にそうなりました。無料で利用できる子育て施設と有料で遊べるキドキドを融合する試みは、とても新しかったと思います。私はそのころ八王子で、支援を必要とする子どもたちと関わりがあったのですが、それはそれはたくさんの子どもたちがあそびに来ていましたよ。汗びっしょりで遊んでた。プレイリーダーさんも、みんなで一生懸命よく付き合ってくださっていました。
※セレオ八王子店。2023年に閉店
キドキドでは、ものづくりに対して誠実な作り手がつくった遊具を、その素晴らしさを正しく理解した人が選んでいると感じます。すべての遊具は偶然じゃなくて必然で生み出されていて、それぞれの存在に理由がある。その意味が子どもにはわかるから、夢中になって遊んでいるのだと思います。
誰からも何も指図されることなく、自分で勝手に、だけど安全に遊べる場所であることも重要です。お稽古事だと遊べないし、何かしら制限があったり勝ち負けを競ったり。自然の中はとても素敵だけど、親だけだと安全管理が難しいので。
多くの子どもたちはいま、自分のあそびの体験とか遊ぶ相手を管理されている。それはあそびとは言えない。誰と何でどうやって遊ぶか。本来それは自分で考えなくてはならないこと。大人が設定してあげるべきなのは、子どもが自分自身で考えられる環境です。
キドキドで子どもたちは体を思い切り動かせるのはもちろん、家ではできないようなクリエイティブな活動ができます。ごっこ遊びや組み立て遊びの道具も、家でこれだけの量は揃えられないですよね。他の子との関わりが自然に生まれるのも、家ではないことなので。こんなあそびが好きなんだ、他の子とこんな風に遊ぶんだ、と自分の子どもの新しい面を発見できるのも魅力です。昔は公園がそういう場所だったのでしょうけれども、数が減っていますし、人間関係も難しいですよね。親御さんの気持ちも楽なんじゃないかと思います。
そういう意味では、プレイリーダーの皆さんには、親御さんたちのコミュニケーションを促してくれる、つむいでくれるような面も必要になってきていると感じます。また、子どもたちに対しての声がけけやあそび方の提案についても、あそびの意義を自分がちゃんと理解していなければ、違うものに変わってしまいます。キドキドが大切にしている理念をしっかり理解している人が育ってほしい。そこにはまだまだ、進化の余地があるかもしれません。
海外の事例を見ていたこともあり、キドキドのスタート時から20年間は当然続くと思っていたし、むしろもっと発展するべきだと思っています。子どもをただ遊ばせるためだけの場所ではなくて、大人自身が新しい知見に出会える場所になっていったら素晴らしいですね。欧米のチルドレンズミュージアムのように、その地域の文化とか教育とか、大切なことを子どもと一緒に自然に学習できるような。あらゆる世代の人の学びの場として発展する可能性はおおいにあると思うので、新しい風をどんどん取り入れて発展していただけたらいいなと思います。
星山麻木先生
明星大学教育学部教育学科教授。保健学博士。日本音楽療法学会認定音楽療法士。一般社団法人こども家族早期発達支援学会会長。「一般社団法人 星と虹色な子どもたち」代表。あそびを通じた子どもの成長と保育者の養成に尽力、教育現場と密接に連携した実践的な研究活動を展開している。