メッセージ

「36の基本的な動き」の提唱者として知られる山梨大学学長の中村和彦先生。
キドキドの草創期から数々の貴重なアドバイスをいただいています。キドキドでの実証実験では、健やかな子どもの発達とあそびの重要性が明らかになりました。
ここでは、キドキドやプレイリーダーの価値や親子の関わりについて、お話いただきました。

キドキドとの出会い

キドキドと初めて出会ったのは、横浜のみなとみらいにできた1号店です。最初の訪問の際、遊具や環境が子どもたちの動きにどのように影響を与えるのか、未来の可能性について当時の会長・社長夫妻と長く語り合ったのを、今でも覚えています。

幼少期に大切な36の動き

将来の展望を描く中で、「幼少期に大切な36の基本的な動き」がキドキドでどのように実現できるかが焦点となりました。「36の基本的な動き」とは、「歩く」「走る」「跳ぶ」などの9つの移動系の動きと、「立つ」「回転する」など9つの姿勢やバランス系の動き、そして「押す」「引く」「投げる」「つく」といった18の操作系の動きから成るものです。これらの基本的な運動スキルは、子どもの身体的な発達にはもちろん、認知的な発達や社会性の育成にも関わりがあります。子どもたちは筋肉の協調性やバランス感覚を養い、さらに問題解決能力や協調性を高めていきます。

36パターンに分類される基本の動き。幼児期にできるだけたくさん経験し、身につけることが望ましいとされている

キドキドでの実証実験

キドキドで遊ぶことが、どれほどこれらの動きの習得を促すのか。湘南の保育園の協力を得て2006年に実証実験を実施しました。36の基本的な動きがどのぐらい出現するのかを分析したところ、キドキドでのあそびで多くの動きの出現が確認できました。特に移動系とバランス系の動きはほぼすべて出現していました。また、あそびを通じて無駄な動きがなくなり、よりスムーズに動けるようになる質的な変容も確認できました。

こちらが実証実験結果の一部。キドキドでの36の基本動作の出現数は、移動系とバランス系を中心に、通常体育時の2倍近くにも!

キドキドの「あそび」

とはいえ、1番良くないのはキドキドに来ると、「トレーニングになる」とか「動きが良くなる」と考えてしまうこと。キドキドでの体験は決してトレーニングではなく、子どもたちが「面白いと感じるあそび」であることに価値があります。また、特定の遊具だけが「面白い」のではなく、子どもたちが次々とさまざまな遊具に自ら何度も挑戦したくなる。そんな全体的な環境が、面白いあそびにつながっています。あそびについては、何が良くて何が悪い、ということは一切ありません。とにかく子どもたち自身が「面白い」と感じて、「またやってみよう」と思うことが一番大切なのです。

キドキドで夢中になって遊ぶ子どもたち。エンドレスに遊び続ける理由は、ひとつひとつの遊具の楽しさだけでなく、遊具の配置やゾーン構成など、全体的な環境づくりに。

プレイリーダーの皆さんへ

20年前からキドキドに関わり、北海道から九州まで全国を回ってプレイリーダーの研修をやったこともあります。1番大切なのは「子どもが育つあそび」というその原点に向けての環境を作ること。

プレイリーダーにとって「どうやればうまく遊べるのか」「この遊具をどうやったらうまく使えるのか」というテクニックの問題ももちろん大きいかもしれませんが、子どもたちがあそびを通じて成長しているという本質を忘れないこと。本来、あそびというのは、誰かから指導されたり指示されてやるようなものではなく、子どもたちの生活の中で子どもたち自身や親を通じて継承してきたもの。いまはそれができなくなってしまっています。

プレイリーダーの皆さんには、子どもたちの育ちを保証するためのあそびを、キドキドが中心になってやってるんだという自覚と誇りを持ってほしいですね。自分たちの仕事が、子どもの育ちを、そして社会を変えていけるかもしれないのですから。

親子関係と「あそび」

あそびを通して「面白い」と感じる経験を、今ほとんどの子どもが体験できていません。だって、遊び場がないんですから。 遊ぶ時間も、遊ぶ仲間もありません。お父さんやお母さんも幼少期に遊ぶ頻度が少なかった方も多くいらっしゃるので、子どもたちにあそびを経験させようという気持ちになるのが、難しいのかもしれません。

また、塾や習い事にはお金をかける一方で、親自身が子どもと積極的に関わることが少なくなり、昔に比べ子どもとの関わりが表面的になっているような印象も受けます。子どもが勉強して成績や偏差値さえ良ければ、いい大学や会社に入れさえすれば、それで子育ては成功・・・・・。そんな風潮を感じるのです。でも本当にそれで良いのでしょうか?それで本当に子どもは幸せな人生を送れるのでしょうか?

自分は親として本当の意味で子育てしてるのか、子どもが育つって本当はどういうことなのかを、よく考えてみる必要があると思います。手段の話ではなく、本質的な話です。そうやって子どもを育てながら親も育っていくというのが、親子の本来の姿だと私は思います。

まずは普段の生活の中で子どもをしっかりと見て、本音で関わる。キドキドのような場で親子で楽しく遊ぶこと、夢中で楽しむ子どもの姿を目にすることは、親子の関わりを取り戻すきっかけになるのではないでしょうか。

キドキドの益々のご発展と子どもたちの健やかな育ちを願って・・・・・。

国立大学法人
山梨大学学長 中村和彦先生

専門分野は教育学および発達心理学。特に幼少年期における「36の基本的な動き」の研究などを通じて、健やかな子どもの発達とあそびの重要性を提唱している。あそびが子どもたちの成長に与える影響を長年にわたって探求し、小学校学習指導要領体育編の作成の他、NHK Eテレの「ブンバボーン」「パブリカ」「ツバメ」などダンスの監修等に携わるなど、子どもたちを健やかに育むための保育実践・教育方法の開発を積極的にすすめている。